春日山原生林は関西唯一の天然林である。春日山における動植物及び昆虫に関する研究は、古くから行われており多くの知見がある。しかしながら、本研究地域の天然林の生育に深く係わる土壌中の物質代謝に関する研究は皆無である。 そこで、本天然林の土壌特性を解明するために、理化学性、生化学反応及び有機物組成等に関する一連の研究を開始した。 供試土壌は春日山原生林内の照葉樹林、杉林及び秀吉杉林下の土壌を、有機物層及び鉱質土層に分けて採取した。本土壌の理化学性、培養法及び直接検鏡法による微生物数量及びヘテロトローフ呼吸量を測定した。得られた結果は以下に要約する。 1)有機物層における理化学性は植生の影響を大いに受けていた。一方、鉱質土層では土壌型、即ち地形等の生育環境の影響を受けることが推察された。 2)微生物数は有機物層のF及びH層で多く、鉱質土層では減少していたことから、有機物層で活発に物質代謝が行われていることが推察された。 3)有機物層における細菌及び糸状菌数は照葉樹林の方が杉林より多く、杉林間では水分量の多い秀吉杉林の方が多かったが、鉱質土層では天然林間の差は認められなかった。 4)森林土壌は農耕地土壌と比べ培養不可能な細菌が著しく多く存在していた。 5)ヘテロトローフ呼吸量は、微生物数と同様に有機物層のF及びH層で多く鉱質土層では減少していたことから、土壌の有機物分解に基づく炭酸ガス発生の大部分は、有機物層に由来することが示唆された。 6)有機物層におけるヘテロトローフ呼吸量は、照葉樹林が両杉林に比べ著しく多くなっていたことから植生の違いによると推察された。一方、鉱質土層では天然林間の差は認められなかった。 以上の結果から、春日山原生林を代表する照葉樹及び杉林土壌の物質代謝の拠点は有機物層であることが明らかとなった。また、その分解は照葉樹林の方が杉林よりも早く、杉林間では秀吉杉林の方が速いことが見出された。
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