研究概要 |
春日山天然林は関西唯一の低地性照葉樹林である.本天然林における動植物及び昆虫に関する研究は古くから行われており多くの知見がある.しかしながら,本天然林の生育に深く係わる土壌中の物質代謝に関する研究は皆無である. そこで,本天然林の土壌特性を解明するために,理化学性,生化学反応及び有機物組成等に関する一連の研究を開始した. 供試試料は春日山天然林内の照葉樹林,天然杉林及び秀吉杉林下L層の落葉落枝をリターバッグにつめて各林分に埋めて分解試験を行い,3,6および9ヶ月後に回収した試料を2mm以下に調整した.供試試料の各近似組成分量および熱水抽出および塩酸加水分解画分の中性糖量を測定した.得られた結果は,以下に要約する. 1)脂質・樹脂類およびセルロース量は,各天然林ともに経時過的に減少していた.特に,セルロースは増加しないことから,植物遺体由来の有機物であることを示していた. 2)リグニン量は,各天然林ともに9ヵ月後においても分解試験前の78%以上であることから,リグニンの分解は他の有機物に比べて極めて遅いことが再確認された.また,照葉樹林および秀吉杉林のリグニン量は増加していることから,リグニン様物質が合成されていることが示唆された. 3)土壌型の同じ照葉樹林と天然杉林を比較すると,9ヶ月後の水溶性多糖類,ヘミセルロースおよびタンパク質量は照葉樹林の方が著しく多かった.微生物由来糖は照葉樹林の方が多いことから,照葉樹林には微生物菌体成分が集積していることが推察された. 4)土壌型の異なる両杉林間では,9ヵ月後の脂質・樹脂類,セルロース,リグニンおよびタンパク質は秀吉杉林の方が多かった.これは,秀吉杉林は窪地形で過湿な環境のため,有機物が分解されにくくそのまま残存していることによると推定された.
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