バクテリアのECFσは細胞質で機能するが、細胞表層に存在するアンチσ蛋白質を介してその活性が制御されていると一般的に考えられている。枯草菌の7つのECFσ因子は、半数は全くの未解析で残りも詳細な働きは判っていない。 ゲノム配列が既知の生物では、マイクロアレイの技術を用いれば、生育条件の違いから生じる全遺伝子のmRNA量の変化を一度にモニターできる。シグマ因子は遺伝子の転写を正に制御する蛋白質なので、前述のマイクロアレイ解析を行い、枯草菌の各シグマ因子が発現を正に制御している遺伝子候補を明らかにした。その結果、各シグマ因子についてそれが制御する遺伝子群は、その数は数十個から数個まで幅広かったが、興味深い事に、それらの間には重なりがほぼなく、個々の因子の働きに個性があり、使いわけがなされていることがわかった。その他得られた膨大なデータを現在解析中である。 個々の因子の詳細解析としては、シグマMが抗生物質バシトラシンの耐性に関わる遺伝子の発現を調節することにより、その耐性機構に寄与していることがわかった。シグマYのオペロンは枯草菌のもつ大きな特徴のひとつである胞子形成の時期に発現が誘導され、シグマYを不活化すると胞子形成に少なからず影響を与えた。 枯草菌の7つのECFシグマ因子のうち6つに関してはアンチσ蛋白質候補を見出し、特異的な相互作用を酵母two-hybrid systemや遺伝学的手法により確認した。現在、このアンチσ蛋白質によるシグマ因子の活性調節のメカニズムの解析に取り組んでいる。アンチσ蛋白質に、部位特異的変異・欠失変異などを導入したり、キメラ蛋白質を作製し特異性の変化を観察することによって機能ドメイン構造を解析している。また、遺伝学的な手法を用いて、アンチσ蛋白質の機能に影響を与える別の因子・遺伝子の探索も行っている。
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