本年度の研究では、インドネシアの伝統的水産発酵食品のうち、エビペースト(テラシ"terasi")に焦点をあてた研究を行った。テラシについては2003年8月にインドネシア、スマランのディポヌゴロ大学で行われた国際セミナー参加の際、ジャワ島中部においてサンプリングを行った。バクテリオシン産生菌の探索は以下の要領で行った。入手テラシをホモジナイズ後、段階希釈し、寒天培地上に塗抹した。この上に食中毒細菌のListeria monosytogenes(リステリア菌)を含む寒天培地を重層した平板培地を培養した。培地上に出現したテラシ由来菌のコロニーの周囲に阻止円を形成したものを、抗菌物質の産生能を有すると判断し、ここから純粋分離を行い、約100株の候補株を得た。これら分離株の培養液と、この培養液のpHを中和した試料を用い、再度実験を行ったところ、未中和試料は阻止円を示したが、中和試料では阻止円が消失した。したがって当初見られた阻止円はpH(有機酸)の影響が大であったと考えられた。ただし、未中和培養液のpHを測定したところ、そのpHと阻止円の大きさの相関に乏しい試料もあったので、pH(有機酸)以外の抗菌物質の存在を伺わせることがあった。そこで、現在、培養液の濃縮を行い、解析を進めているところである。本年度はバクテリオシン産生株の絞り込みにいたらなかったので、早急に菌株の選択と産生物質特性の検討等を進める予定である。さらに、本研究の基礎的知見を深めるため、これまでの予備的実験で分離した乳酸菌を使用して、テラシにおける乳酸菌フローラも検討した。その結果テラシ中には高塩分(NaCl 15%)で発育できる乳酸球菌が生育しており、その16S rRNA遺伝子の検討等からTetragenococcus halophilusとTetragenococcus muriaticus好塩性乳酸菌からなることが判明した。これら乳酸菌フローラ解析についてはJournal of General Applied Microbiology誌に報文として掲載された。
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