研究概要 |
スフィンゴモナス属細菌(A1株)において高分子物質(アルギン酸)の輸送に関わるアルギン酸結合タンパク質(AlgQ2)、及びアルギン酸の分解に関わるアルギン酸リアーゼ(A1-III)のX線結晶構造解析を行い、以下の知見を得た。AlgQ2は、α/βバレル構造を持つ2つのドメイン(N-,C-ドメイン)から成り、両ドメインの開閉(30度)を伴う分子運動によりアルギン酸の結合と解離を行う。これは、N-ドメインとC-ドメインとを結ぶ3本のループ(ループ1,2,3)の構造変化によってもたらされている。アポ型AlgQ2(アルギン酸非結合)においては、2本のループ1,2が水分子を介した水素結合によって安定化されているが、アルギン酸の結合に伴い、この水分子は排除される。この結果、ループ1はCドメイン内のループと新たに結合し、ドメインは閉じた構造に移行、安定化する。ドメイン間の開閉における水1分子の排除機構は、基質結合タンパク質では初めての知見である。A1-IIIは、新規なα_6/α_5バレル構造を有し、バレル中のトンネル状クレフトで触媒反応を行う。A1-IIIにおける基質結合と触媒作用は、活性部位上部に存在するリッドループの動的構造変化(25度)を伴う。リッドループ内に含まれるアミノ酸残基(G60,R67,Y68,Y80)に部位特異的変異を導入し、その酵素学的性質を調べた。全ての変異体は、野生型と比較して低い活性を示し、特に、R67A,Y68Fでは顕著であった。従って、A1-IIIの触媒反応には活性部位を覆うリッドループ内のアミノ酸残基も重要であることが明らかになった。今後、アルギン酸との複合体の精密な高次構造を決定することにより、AlgQ2及びA1-IIIにおける構造の,「揺らぎ」と機能発現との相関を明らかにする。
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