研究概要 |
スフィンゴモナス属細菌(A1株)において、高分子物質(アルギン酸)の輸送に関わるアルギン酸結合タンパク質(AlgQ1,AlgQ2)、及びアルギン酸の分解に関わるアルギン酸リアーゼ(A1-III)の構造機能解析を行い、以下の知見を得た。表面プラズモン共鳴法により、AlgQ1とAlgQ2は高分子多糖アルギン酸と濃度依存的に結合し、それらの解離定数は0.23μM(AlgQ1)と0.15μM(AlgQ2)であることが判明した。また、その結合は、酸性側(4.0)に至適pHを持ち、アルギン酸特異的であった。X線結晶構造解析により、AlgQ1はAlgQ2と同様、α/βバレル構造を持つ2つのドメイン(N-,C-ドメイン)から成り、両ドメインの開閉を伴う分子運動によりアルギン酸の結合と解離を行うことが示された。AlgQ1とAlgQ2の基質結合によるドメインの開閉は、各々44°と33°と異なる値を示すが、いずれもN-ドメインとC-ドメインとを結ぶ3本のループ(ループ1,2,3)の構造変化により生じる。A1-IIIはバレル中のトンネル状クレフトで触媒反応を行い、その反応には活性部位上部に位置するリッドループ(残基番号62-87)の開閉が伴う。A1-IIIの予想触媒残基に変異を導入したH192AとY246F(アポ型)、及びそれらのアルギン酸4糖との複合体(ホロ型)の高次構造を決定した。H192Aのアポ型は「開いた構造」をとり、H192AとY246Fのポロ型は「開いた構造」と「閉じた構造」の両方を示す。従って、リッドループは基質の有無に依存しないフレキシブルな運動を示し、「開いた構造」と「閉じた構造」が平衡状態にあることが示唆された。今後、アルギン酸との複合体の精密な高次構造、特に結合・活性部位の微細構造を決定することにより、AlgQ1,AlgQ2及びA1-IIIにおける「揺らぎ」の構造的要因とその機能相関を明らかにする。
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