本申請者はメチロトローフ酵母Pichia methanolicaが持つ2つのAOD遺伝子を利用することにより、より強力で、同一環境下で発現量比・発現時期の調節可能な複数の有用タンパク質の発現を自在にコントロールできる新たな分子生物学の研究ツールの開発を目指しており、本研究ではAODアイソザイムの発現制御機構の解明からP.methanolica新規異種遺伝子発現系の開発を目的としている。 ・本年度の研究内容・成果(AODアイソザイムおよびメタノール代謝酵素の挙動、AOD遺伝子破壊株の解析) 1.MOD1とMOD2の発現制御に関する解析 MOD1とMOD2は異なる発現機構によりその発現が制御されていた。MOD1はメタノールのみならずグリセロール、キシロース等を誘導炭素源として利用できるのに対し、MOD2はメタノール以外での発現は観察されなかった(Ref.4)。また、メタノール濃度および酸素濃度によってもAOD発現が調節でき、その発現は転写レベルで制御されていた。このことは両プロモーターを用いて有用遺伝子発現を炭素源、酸素濃度により制御でき、新規異種遺伝子発現系への応用が可能であることを示唆している。また、メタノール代謝の鍵酵素ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼの発現誘導についても詳細な解析を行った。 2.AOD遺伝子破壊株の生育特性 mod1Δmod2Δ株の生育特性について詳しく観察した。AOD遺伝子破壊株はメタノールに対する生育能を完全に失っていたが、MOD1の誘導炭素源グリセロール、キシロースにおける生育には影響を示さなかった。このことはAOD遺伝子破壊株を形質転換系の宿主として利用できる可能性を示しており、AOD遺伝子破壊株を用いることで、(1)プロモータの重複による発現量の低下が防げる、(2)発現量の多いAODの合成に使われるアミノ酸、エネルギーを節約できる、(3)AODの占めるスペースを異種タンパク質に用いることができる、等の理由からさらなる高収率が見込める宿主として期待できる。
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