研究概要 |
出芽酵母Saccharomyces cerevisaeのトリプトファン輸送は高圧や低温への感受性が高く、トリプトファン要求株の増殖はこうした条件下で強く制限される。これまでに、トリプトファン輸送体Tat2の分解が圧力負荷により促進され、その過程はユビキチンシステムに依存することを示してきた。脱ユビキチン化酵素Ubp (Ubiquitin-specific protease)の遺伝子を破壊したところ、doa4,ubp6およびubp14破壊株において高圧・低温増殖能が確認された。これらの遺伝子破壊株ではTat2が安定化していることから、Tat2の圧力制御に脱ユビキチン化も関与する可能性を示唆している。さらなる高圧・低温増殖関連遺伝子の検索を目的とし、4828株からなる酵母遺伝子破壊ライブラリーの網羅的スクリーニングを行った。その結果、遺伝子型がトリプトファン非要求性であるにもかかわらず、317株もが高圧(25MPa)と低温(15℃)への感受性を示した。MIPS (Munich Information Center for Protein Sequences)のカテゴリーに準じてそれらを分類したところ、代謝および転写に関わる遺伝子が多数を占めていることわかった。一方、DNAマイクロアレイにより両条件下での全遺伝子の発現パターンを調べたところ、高圧で誘導される遺伝子の多くは低温で誘導され、逆に高圧で抑制される遺伝子の多くは低温でも抑制されるという顕著な結果が得られた。一方、こうした遺伝子のほとんどは破壊実験の結果に対応していなかった。このことは、必須遺伝子=発現量上昇という単純な図式化が成り立たないことを示している。
|