前年度までに、無傷種子の発芽過程でPAを分解するリン酸化脂質ホスファターゼ(LPP←前年度までPAPとしていた遺伝子はLPPという名称で報告されていた)であるLPP2のノックアウト変異体(lpp2)を用いた解析によりPAがABAのシグナル伝達に関与することを明らかにした。lpp2は発芽過程で顕著にPAを蓄積する性質がある。今年度は、PAがABAのシグナル伝達系で発芽制御に関与している転写因子ABI3およびABI4とどのような関係にあるのかを遺伝学的に解析した。各々の遺伝子の変異体abi3、abi4はともに発芽時にABA非感受性を示すことが知られている。lpp2とそれぞれの変異体との二重変異体を作製しABAに対する発芽時の感受性を調べた。その結果、lpp2 abi3は、abi3のABA非感受性を回復し、一方lpp2 abi4は8bi4のもつABA非感受性を比較して何ら変化が見られなかった。したがって、PAのシグナルの下流にABI4が存在することが示唆された。さらに、発芽過程のlpp2と野生型についてアジレント22kアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析を行い、動物でアポトーシスを起こさせるシグナル伝達系で重要な機能を持つプロテインキナーゼPDK1と相同性のある、高等植物では機能不明なAtPDK1-2が有意に発現誘導されていることを見出した。このキナーゼはPAを物理的に結合して活性化することがわかっている。したがって、発芽過程においてABAシグナルがPAに変換し、そのシグナルはPDKキナーゼによってさらに下流へと伝達され、その標的の一つとしてABI4が存在していることが予想された。
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