研究概要 |
本研究では、病原性グラム陰性細菌がその細胞外膜に産生する複合糖脂質-リポオリゴ糖(LOS)、リポ多糖(LPS)-の「普遍的糖鎖」部分に存在する酸性糖KDO(3-deoxy-D-manno-oct-2-ulosonic acid)に焦点をあて、その構造解析および生物化学的意義を解明するためのバイオプローブ開発を目指し、そのための立体選択的グリコシル化とオリゴ糖鎖コンジュゲートの構築を目的としている。 本年度は、KDO糖鎖-タンパクコンジュゲートの糖鎖還元末端側となるKDOとタンパクとを結合させるためのスペーサー(リンカー)との立体選択的縮合反応について検索を行い、以下の点を明らかにした。 1.Methyl 4,5,7,8-tetra-O-acetyl-3-deoxy-D-manno-oct-2-ulosonateを求核剤に用い、側鎖に塩素を有するアルキルまたはアリールイソシアン酸誘導体との縮合反応では、最高収率94%でKDOのαグリコシドが選択的に得られる。 2.この反応で得られる主生成物は、分子内環化を伴ったスピロケタール構造を持つ。 3.反応に用いる塩基の種類を3級アミンからアルカリ金属に変えることにより、得られる生成物の立体化学が逆転し、β体が優先する。 4.グリコシド結合の立体化学、α、β体の決定にはKDO3位のアキシャルプロトンと1位カルボニル炭素との結合定数を測定する方法が有効である。これまでに発表されたKDO誘導体のデータと今回合成した化合物のデータ比較から、結合定数および13Cのシフト値は、α体、β体について同じ傾向を示し、ケタール構造を取っていてもこの傾向は変わらない。 本方法は従来から用いられている糖を求電子剤として用いるグリコシル化反応ではなく、求核体として用いる新しいタイプの反応である。反応生成物のスピロケタール構造はKDOの2位4級炭素を強固に固定化していることから、分子の揺らぎが制限されているLOS/LPSに類似した3次構造を有する糖鎖の構築が期待できる。また生成物の側鎖ハロゲン基は、反応性が高くKDO糖鎖-タンパクコンジュゲート合成に向けた前駆体に十分なりうる。
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