メラニン色素は細胞内小器官であるメラノーソーム内で合成され、メラノソーム単位で色素細胞の樹状突起先端部より、周辺の細胞に分泌される。このため、色素細胞における樹状突起伸長は、形態上の分化の指標であると考えられている。当該研究課題において、これまでlupeolを始めとしたルパン型トリテルペンに色素細胞株のひとつであるB16 2F2メラノーマ細胞のメラニン産生能を亢進することや、その作用メカニズムを明らかにしてきた。本年度は、lupeolによるB16 2F2細胞の樹状突起伸長作用のメカニズムを検討した。Lupeolは濃度依存的にB16 2F2細胞の樹状突起を伸長させた。この樹状突起伸長作用は、細胞内骨格タンパク質であるアクチン繊維の脱重合によるものであった。また、lupeolによるB16 2F2細胞内アクチン繊維の脱重合メカニズムは、低分子G-タンパク質Rhoの不活性化に伴うアクチン調節因子cofilinの活性化により、アクチン繊維がモノマー/オリゴマー化する結果であった。LupeolによるB16 2F2細胞のメラニン産生促進作用はp38 MAPキナーゼ系が重要な役割を担っていることを報告したが、樹状突起伸長作用についてはp38 MAPキナーゼ系は関与しておらず、色素細胞分化の指標であるメラニン産生と樹状突起伸長の二つの現象は、お互い独立して誘導されるものと推察された。さらに、細胞の形態は運動性と密な関わり合いがあることが知られている。そこで、lupeolによる種々のヒト腫瘍細胞の運動性抑制能を検討した結果、メラノーマや神経芽腫細胞に対して、著しい運動性抑制能を示した。腫瘍細胞の運動性は、それらの転移能と関係深いため、メラノーマや神経芽腫の転移抑制物質としてlupeolは使用できる可能性が示された。
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