各種デンプン中で最も難分解性であるジャガイモデンプンを用いデンプン糖化に及ぼす高圧処理の影響について検討を行った。まず、α-アミラーゼによる分解性に及ぼす高圧処理(30分間、10℃)の影響について検討を行ったところ、400MPa以下の圧力では分解性の増大は観察されず、500MPa以上の圧力で分解性が増大し、650MPa処理では分解率が約60%に増加した。また、高圧処理デンプンのα-アミラーゼによる分解生成物の重合度を測定したところ、無加圧では、G2〜G4の低重合度の糖が多く生成し、分解物中で約80%を占めたのに対し、650MPa処理では、G9〜G12の比較的高重合度な糖の生成が多く約60%を占めていた。さらに、糊化吸熱量を測定したところ、600MPa以上の処理により糊化吸熱量が著しく低下し、650MPaでは無加圧の約1/7に低下した。これら糊化吸熱量の減少は、α-アミラーゼによる分解性増大圧力量と一致し、デンプンの結晶構造が圧力処理により影響を受け、分解性が増大したものと推察された。次に、圧力デンプンの老化試験を行った。650MPa処理したデンプン懸濁液を20℃にて0〜7日間貯蔵した結果、α-アミラーゼによる分解性は圧力処理直後に比べ低下はみられず、老化現象が観察されなかった。また、デンプンの結晶構造の指標である偏光十字を観察したところ、650MPa処理にて偏光十字が消失している粒子が一部観察された。しかし、偏光十字が消失した粒子は、熱糊化デンプンのようなデンプン粒子が溶解するまでには至らず、粒子全体が膨潤してはいたが輪郭は保持しており、7日間貯蔵に於いても変化はみられなかった。このことから、デンプンは高圧処理により結晶性が低下し酵素の作用を受けやすく変化するが、デンプン粒が崩壊することはなく、このことが熱糊化デンプンに比べ耐老化性を有する要因であると考えられ、本研究により、高圧処理による耐老化性デンプンの製造が期待される基礎的知見が得られたものと考える。
|