野外で生育する樹木は、環境ストレスにより光合成器官である個葉のサイズを変化させることが知られている。この環境ストレスと個葉サイズの関係を明らかにするために、本研究は個葉サイズを決定する分子機構を明らかにすることを目的とした。本年度の到達目標は、個葉サイズの違いを調節する機構を細胞分裂と細胞肥大に二別して評価することである。細胞分裂と細胞肥大の評価は、個葉サイズに関わりのある表皮細胞と柵状細胞の直径を計測し、個葉サイズとの関係から解析した。 ブナは日本の冷温帯を優占する樹木で、北海道の南部から鹿児島県まで分布する。ブナの個葉サイズは産地により異なることが知られ、ここでは山梨と北海道の産地試験試料を対象に、冬芽の中にある胚葉から葉が展開して葉のサイズが決定するまでの過程について、個葉サイズと細胞サイズを調べた。2つの産地を比較すると胚葉の細胞サイズおよび成業の細胞サイズにおいて有意差がみられなかった。また、個葉のサイズの成長速度は産地間で差がみられなかった。個葉サイズの大きな北海道産のブナは、個葉の展葉期間が長かった。したがって、個葉サイズは細胞分裂により規定され、個葉サイズが大きなものは細胞分裂期間が長いためであることが示唆された。 同様な目的で海抜高度の異なるブナ樹冠を対象に個葉のサイズと細胞サイズの関係を調べた。海抜高度の分布上限におけるブナの葉はわずかに小さかった。表皮細胞と柵状細胞の直径には海抜高による有意差がみられなかった。したがって、海抜高度による葉のサイズの変化は細胞分裂により規定されているものと考えられた。
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