研究概要 |
・前年に設定した5haの調査プロットをさらに拡大し,10.5haの調査プロット内の全繁殖個体の遺伝子型を明らかにした.これらと既に確定している種子と実生の遺伝子型を比較することにより,数理モデルを用いて種子と散布の散布様式を解析した.花粉散布曲線は,近隣からの散布と遠距離からの散布の2成分的なものとなっており,従来用いられてきた正規分布や指数関数曲線ではなく,新たに考案した2成分モデルが花粉散布パターンを定量するのに優れていた.このモデルを用いた場合,近隣では母樹のすぐ近くに雄個体がいる場合にはその個体からの花粉散布が卓越するが,いない場合にはランダム交配に近い状況になることが明らかになった.種子散布については,裾野の長いFat-tail型の曲線になることが示された.このように,従来考えられていたよりもヤチダモは広範囲にわたって遺伝子交流が起こっていることが示された.この結果から,現在,分断化された水辺林や孤立した水辺林も遺伝子供給源として重要な役割を果たすことが示唆された.本モデルは,他樹種の遺伝子流動を定量化する上でも応用可能であると考えられ,現在国際学会誌への投稿準備を進めている. ・種子散布の実態を別の角度から明らかにするため,9母樹の種子を8.3mの鉄塔の上から人工散布し,落下速度と距離を測定した.各種子の翼のかたちを画像解析によって定量化し,面積,重さ,かたちと散布能力の関係について検討した.その結果,面積,重さなどの従来から知られている項目のほかに,種子の両端のかたち(尖り)が落下時間と関係するという新たな知見が得られた.この結果をとりまとめ,現在,国際学会誌に投稿中である.
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