研究概要 |
断片化した里山における森林植物の遺伝構造を解明するために,三重県津市の市街地に点在する孤立林を調査地とし,そこに生育するコバノミツバツツジを対象に以下の調査を行った.調査地は宅地や墓地のために断片化している.調査対象とした孤立林は,A, B, Cの3箇所とした.コバノミバツツジはAに39個体,B-Iに117個体,B-IIに52個体,Cに29個体が分布していた.Bの個体群は大きいため,地理的に近いもの同士をまとめてB-IとB-IIに分けて解析を行った. 1.サイズおよび花数の頻度分布 各孤立林におけるコバノミツバツツジ個体群に占める開花個体の割合ならびにサイズ頻度分布を把握するために,各個体について花数,樹高,幹数,幹の直径を測定した.孤立林間で開花個体率が異なり,それが高い個体群では直径が太く幹数が多かった.この結果は,光環境の違いによってもたらされたと推測される. 2.遺伝的構造の比較 コバノミツバツツジ個体群の遺伝的構造を孤立林間で比較するために,3つの孤立林に生育する237個体から葉の採取を行い,DNAを抽出した.DNA分析に用いるホンシャクナゲのDNAで開発されたマイクロサテライト遺伝子座3座を用いた.今回,対立遺伝子数が少なかったために,個体群間の遺伝的分化の程度を推測することが出来なかったが,いずれの個体群においてもヘテロ接合度の期待値(He)が0.744〜0.780となったため,遺伝的多様性が高い状態であることが示された.森林断片化によるコバノミツバツツジの遺伝的構造への影響は,成木個体にはみられなかった.しかし,現在の種子生産段階における断片化の遺伝的な影響は不明であるため,来年度以降の課題としたい.
|