研究概要 |
森林の断片化および縮小化によって森林サイズが異なると,下層の光条件なども異なるため,生育する植物は繁殖のうえで影響を受けるであろう.森林の断片化に伴う低木種の遺伝的劣化が生じる仕組みを解明するために,孤立林におけるコバノミツバツツジを対象に,各個体の光環境,着花数および種子生産に関する調査を行った.三重県津市の4つの断片化している孤立林(A, B, C, D)において,コバノミツバツツジの花数,さく果数および種子生産を比較した.各個体の樹冠上部における平均相対照度は,D林,A林,B・C林の順に高かった. 個体サイズが大きいほど着花数とさく果数が多い林分が複数みられた.個体サイズが大きい個体ほど,養分の蓄積量が多いため,開花や種子生産への資源配分量が多いことを示唆する.結果率を林分間で比較すると,A林とB林では0.05以下の個体が最も多かった.D林では結果率が0.21〜0.25と0.36〜0.40の個体が多かった.B林では,面積が広く光環境は比較的暗いうえに,個体間の距離が大きかった.ポリネーターの訪花頻度は,照度が高いほど上昇することが知られ,ポリネーターの訪花頻度が低かった可能性がある.C林では着花数が少ないが結果率が0.50以上の高い個体が多かった.暗い光条件下にあるC林で結果率が高かったことは,個体間距離の短さが影響したのかもしれない.D林における各個体の結果率はある程度高かったが,花数の多さほどさく果数は多くなかった.立木密度が高く花数が多いため隣花受粉の割合の高さや資源制限の可能性がある.コバノミツバツツジの種子生産には高い照度条件や着花数の多さが必要であるが,個体間距離の短さも影響するものと推測される.一方,断片化によって同樹種の種子生産量に負の影響はなかった.ただし,種子の遺伝的な質については不明なので,近交弱勢などの調査を行なう必要がある.
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