研究概要 |
1,水分上昇パターンの樹種ごとの類型化 昨年度実施した常緑広葉樹・針葉樹に対する酸性フクシン水溶液の樹幹注入による染色試験を,本年度は落葉広葉樹について実施し,樹幹中,および幹-枝-葉にかけての水分上昇パターンの樹種ごとの類型化について検討した.試験地は福岡(九州大学農学部圃場・立花口圃場),熊本(熊本県林業研究指導所)とし,対象樹種としてコナラ,エノキ,センダン,ケヤキ,およびネムノキを使用した. その結果,コナラはinterlock型の水分上昇様式を示し,常緑広葉樹やスギと似ていた.他の樹種については既往の文献に報告のあるspiral型やsectorial straight型の水分上昇パターンでもなく,幹中を上昇するにともない急速に拡散する型(拡散型)であった.また,染色液が上昇する年輪数についても観察したところ,コナラとエノキで4〜5年程度,他の樹種は1〜2年分の年輪が染色されていた.スギ,ヒノキでは着葉年数と染色される年輪数とがほぼ一致していたが,常緑落葉にかかわらず広葉樹の場合,着葉年数と染色年輪数には対応していなかった. 2,スギにおける樹幹深さごとの蒸散流速 昨年度の染色試験から,染色される幹の年輪数と葉の染色部位について齢的同調性が認められたスギを材料として,樹幹深さごとの蒸散流速の差異と季節的な変化についてヒートパルス法による測定を開始した.九州大学農学部構内圃場に生育するスギ2個体にそれぞれ深さ1cm,2cm,3cmでヒートパルスセンサーを設置し,また,周囲の気象条件(太陽放射,気温,相対湿度,土壌含水率,風向,風速)についてもモニターしている.深さごとの蒸散速度は個体間で異なり,それぞれ1cm部分と2cm部分が最大であった. なお,調査期間として1年以上を想定しているため来年度も引き続き調査を行い,同時に葉のガス交換速度についても測定し,蒸散流速との対応について検討する。
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