研究概要 |
ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の本州中部の個体群成立の歴史的背景を明らかにするために、ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析を行い、本州西部の集団と比較した。 西中国(島根県・広島県・鳥取県,サンプル数:n=33)、東中国(鳥取県・兵庫県,n=22)、北近畿西部(兵庫県・京都府,n=32)、北近畿東部(京都府,n=32)、長野・新潟(長野県・新潟県,n=47)の5個体群を解析に用いた。1991年から2004年の間に有害駆除や狩猟により捕殺または捕獲された個体の筋肉または毛からDNAを抽出し、mtDNAコントロール領域約700bpの塩基配列を決定した。 本州西部の4個体群ではハプロタイプ数、遺伝子多様度はそれぞれ4〜7、0.44〜0.64だったのに対し、長野・新潟個体群では19、0.90と最も高かった。ハプロタイプ間の遺伝距離から描かれた系統樹では、各ハプロタイプは大きく3つのグループ(グループA, B, C)に分かれた。グループAは主に北近畿東部で検出されたハプロタイプ、グループBは主に西中国・東中国・北近畿西部で検出されたハプロタイプ、グループCは長野・新潟で検出されたハプロタイプで構成されていた。ネットワーク図では長野・新潟で検出されたハプロタイプは北近畿東部とは異なるクラスターを形成していた。 近畿東部以東、本州北部にかけて生息するツキノワグマは、およそ1万5千年前の最終氷期を同じ地域で生き残った個体に由来すると考えられてきた。しかし、本研究で新潟・長野個体群は、北近畿東部個体群と異なるmtDNAのタイプを保持していることが明らかになった。このことは、近幾以東の比較的大きな個体群は、最終氷期を異なるレフュジアで過ごしていた複数の個体群を起源にしていることを示唆している。
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