研究概要 |
針葉樹におけるモノテルペン生合成の制御機構の解明に向け,ヒノキにおける4種類のモノテルペンキモタイプ(5S,37S,55S,70S)の針葉からcDNA-PCRライブラリを作製し,筆者らによって単離されたグランドファーモノテルペン合成酵素遺伝子等との相同性を基にスクリーニングを行い,モノテルペン合成酵素遺伝子と推定されるcDNAを単離した。その後55Sキモタイプから得られたcDNAを大腸菌内で発現させ,生成物をガスクロマトグラフおよびガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析を行ったところ,本酵素は15種類のモノテルペン成分の生成を触媒することが明らかとなった。それらの主要成分はリモネン,ボルネオールおよびγ-テルピネンであったため,本遺伝子をヒノキリモネン/ボルネオール合成酵素遺伝子(col)と命名し,日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録した(Accession number:AB120957)。 キモタイプごとのcolの塩基配列を調査したところ,5Sから得られたcolが他のキモタイプと大きく異なり,中間部の塩基配列が約50%欠落していた。アミノ末端にプラスチドターゲティングサイトが付随していたので,この酵素もプラスチドまで運ばれるものと推定されるが,カルボキシル末端側に含まれる推定活性部位の一部も欠落しているため,触媒能を持たず他のモノテルペン合成酵素に対して阻害的に働くことが推察された。5Sキモタイプは他のキモタイプに比べてモノテルペシ組成において非常に特異的であり,今回得られたcol遺伝子(5S)の特異性がそのモノテルペン組成に影響を与えている可能性がある。現在,55S以外のキモタイプのcolの発現,同定および他のモノテルペン合成酵素遺伝子のスクリーニングを引き続き行っている。また,来年度のゲノムDNAの研究によりさらなる詳細が明らかになるであろう。
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