本研究者はテルペンシンターゼによりゲラニル二リン酸からテルピノレンを合成し、さらに修飾を受けてヒノキチオールが生産されると予想している。この予想に基づき、C.lusitanica細胞に存在するヒノキチオール生産関連酵素の探索を行った。 まず、テルペンシンターゼのクローニングを試みた。既知のテルペンシンターゼのcDNA配列を参考にホモロジーを用いたdegenerateRT-PCRにて対象遺伝子の断片を得た。このRT-PCR産物のDNA配列は従来のテルペンシンターゼに十分なホモロジーを持っていたので、これをもとにcDNAライブラリーからのテルピノレンシンターゼのスクリーニングを行った。このプローブによって、いくつかのクローンが得られた。しかしながら、すべてのクローンは5‘末端の配列を欠いていたので、5'-RACE法を用い、欠損部分を補うことで全長配列を得た。この全長配列はすべて既知針葉樹テルペンシンターゼと十分に相同性を持つことが示された。大腸菌によるこの酵素の生産のためにはシグナルペプチドの切除が必要なため、適宜5'側配列を削った状態でこれらを遺伝子導入し、異種発現させ、誘導タンパクを得た。しかしながら、現在のところこのタンパクに酵素活性を得るには至っていない。 一方で、本細胞内にあるモノテルペン類の探索から、炭化水素モノテルペンのP450酵素による代謝に興味が持たれた。そこで、ヒノキチオール生産の中間体と予想しているテルピノレンの粗酵素液による変換について調べた。一般的な植物P450の抽出・反応に使われる条件でC.lusitanica細胞粗酵素抽出液ミクロソーム画分を用いてテルピノレンを基質としたところ、生成物として5-Isopropylidene-2-methyl-cyclohex-2-enolが得られた。これが、さらに酸化・変換を受けてヒノキチオールとなる物と予想している。
|