研究概要 |
イカナゴの加入量予測を可能とするために,2003年と2004年に陸奥湾に出現した浮遊仔魚密度の経時変化と,餌生物環境および物理環境を比較し,初期生残にかかわる「マッチ・ミスマッチ仮説」と「成長-被食仮説」を検証した。 1.主出現期である2月下旬から4月下旬までの仔魚密度は,両年に有意差はなかった(一元配置の分散分析;P=0.33)。 2.同時期について,水温には有意差はなく(P=0.99),塩分は2003年に対して2004年には平均0.27低かったが(P=0.006),両年とも期間中次第に低下し,最高塩分からの低下幅には年変動はなく(P=0.78),両年は類似した物理環境過程と推定された。 3.同時期について,主要餌生物であるカイアシ類ノープリウスの平均密度は,2003年(22.3個体/L)に対して2004年(31.2個体/L)に有意に高かった(P=0.04)。 4.最も仔魚密度が高かった2003年4月上旬と2004年3月中旬には,ノープリウス密度は低く,その後約10〜30日後にピーク値を示したことから,仔魚が成長するにつれて餌密度も高くなっていた。 以上のように両年には,餌密度の多寡と,仔魚出現時期の相違が観察された。2003年の浮遊仔魚は,調査期間中最も餌密度が低い3月下旬に孵化日のピークを示したことから,餌密度が高い時期に孵化した個体だけが生き残るマッチ・ミスマッチ的死亡は考えられなかった。また餌密度が低かった2003年の仔魚は,成長の速い個体だけが生残する傾向は認められなかったことから,個体によって異なる摂餌能力や被食回避能力の違いによって,選択的に生残することも考えられなかった。今後は2004年の仔魚の孵化日組成と成長速度を明らかにし,餌密度が高い年には成長速度も高められ,浮遊期間の短縮による累積死亡率の低減が生じていたか否かを明らかにする。
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