研究概要 |
本年度の飼育実験では,イシダイが艀化後20日頃までで全滅してしまったため,イシダイを用いた実験は行えなかった.そこでヒラメを材料として基礎的な実験を行い,魚類の学習実験に関する実験系の確立を目指した. 観察学習能力の確認 ヒラメ稚魚を材料として,魚類において観察学習が可能であることを以下の手順により示した.20尾のヒラメ稚魚を捕食者であるアナハゼと遭遇させる経験学習区,経験学習区の同種個体が捕食される様子を隣接した水槽から視認させた観察学習区、および学習付けを施さない対照区を用意した.各区のヒラメの摂餌行動および捕食者と遭遇した際の行動をビデオ撮影により観察した.学習付けを行ってから翌日までの摂餌行動観察から,経験学習区および観察学習区のヒラメは対照区に較べて,摂餌に際して底を離れる時間が短く,警戒行動を強く示すことが明らかになった.また捕食者と遭遇した際,経験学習区・観察学習区とも対照区に較べて生残率が高いことが示された. 対捕食者能力の発達におよぼすタウリンの影響 魚類の活力の向上に有効であるとされるタウリンを餌の中に多量に添加した条件と,タウリンを欠乏させた条件とでヒラメ稚魚を20日間にわたって飼育した後,両者の行動を比較した.その結果,タウリン強化区は遊泳能力および捕食者回避能力に優れていた.しかし両者の捕食者回避能力の差は,学習区と対照区の差ほど顕著ではなかった.以上のことから,ヒラメが捕食者を避ける上では,運動能力よりもむしろ学習の有無がより重要であることが示唆された. T迷路の作成 学習のプロセスをより定量的・定性的に把握するため,T迷路学習装置を開発した.これは60センチのアクリル水槽の片側に一枚の仕切を設け,水槽をT字型に区切ったものである.迷路の先に視覚刺激を置き,これと給餌とを組み合わせることにより,褒美学習による条件付けの系を確立した.
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