有用甲殻類であるタイワンガザミとアミメノコギリガザミのミトコンドリアDNA調節領域(D-looP領域)PCR-RFLP分析を用いて自然集団の遺伝的多様性、遺伝的組成および集団構造を明らかにした。また、従来からのノコギリガザミ類稚仔の種判別手法に改良を加えた。 タイワンガザミ集団標本群は、沖縄県中城湾、沖縄県羽地内海、高知県浦戸湾、台湾東港、フィリピンIloilo島、ベトナムトンキン湾の合計294個体を用いた。その結果、多型的な5種類の制限酵素から合計39の切断型多型が検出され、個体ごとに整理すると合計44種のハプロタイプに分けられた。これらハプロタイプ数は集団標本群によって大きく異なり、沖縄の2集団ではそれぞれ2および3と少なく、フィリピンやベトナムでは14、19と多くのハプロタイプを保有していた。遺伝的多様性を示すハプロタイプ多様度と塩基多様度はそれぞれ0.153〜0.858と0.0046〜0.065であった。沖縄の2集団標本群の遺伝的多様性は、他よりも極端に低いことが明らかとなった。AMOVAによって沖縄の2標本群以外では集団間に遺伝的差異が認められた。沖縄島において人工種苗の放流効果を追跡する場合にはハプロタイプ2または3を用いることができると考えられた。一方、アミメノコギリガザミ集団標本群は、沖縄県石垣島、静岡県清水港、和歌山県紀ノ川、高知県浦戸湾、台湾東港、モザンビーク、マダガスカル、オーストラリアの合計260個体を用いた。その結果、多型的な3種類の制限酵素から合計22の切断型多型が検出され、個体ごとに整理すると合計27種のハプロタイプに分けられた。ハプロタイプ数は、アフリカの2地点では少なかった。ハプロタイプ多様度と塩基多様度は、それぞれ0.311〜0.8269と0.0027〜0.0137であった。AMOVAによって国内外で遺伝的差異が見出された。 稚ガニ胃内容物のDGGE分析は、現時点で良好な成績が得られないので次年度の重点課題である。
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