真菌感染に対する魚類の生体防御は、白血球を中心とする宿主細胞による侵入菌糸の包囲化がその主体をなす。しかしながら、そのメカニズムについては明らかになっていない。本研究では、コイおよびニジマスを対象に、魚類白血球による病原真菌の認識とシグナル伝達系を含んだ活性化機構について研究を進めた。魚病真菌の一種であるAphanomyces piscicidaの産生するガラクトース結合性タンパク(GBP)がコイ白血球の活性化を誘導することを明らかにした。GBPで刺激された白血球では一部のタンパクにチロシンリン酸化の上昇が観察され、本タンパクがコイ白血球膜表面のGBPレセプタータンパクである可能性を示唆した。一方、ニジマスの病原真菌であるIchthyophonus hoferiとニジマス腎臓白血球を混合培養すると、生体内で認められる異物包囲化と類似の細胞反応が観察された。本反応は、顆粒球、マクロファージそしてリンパ球の多くの細胞種によって担われていることが明らかになった。包囲形成のプロセスは、顆粒球およびマクロファージのI. hoferiへの接着から始まり、その後、I. hoferiを中心にリンパ球を含んだ全ての白血球による細胞凝集が生じ、包囲化に至った。包囲形成過程におけるサイトカインの発現を調べたところ、炎症性サイトカインであるIL-1βおよびTNFαの発現上昇が包囲形成初期(顆粒球およびマクロファージの接着時)に認められ、I. hoferiとの接着により活性化された顆粒球およびマクロファージがこれらサイトカインを産生し、包囲形成に重要な役割を果している可能性を示唆した。包囲形成誘導に関与する病原体認識メカニズムについて調べたところ、多糖であるフコイダンおよびヘパリンがニジマス白血球によるI. hoferiの包囲化を阻害した。さらに、これら多糖は、I. hoferiに結合性を示す数種の白血球膜タンパクのI. hoferiへの結合も阻害し、本膜タンパクが包囲形成誘導レセプターである可能性を示唆した。本研究を通じ、糖鎖を介した認識機構が病原真菌に対する魚類生体防御の根幹をなしていることが確認できた。
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