本年度は前年度の研究から分かった嚥下の必要条件は妥当であるのかを検証することを目的として、ゲル状食品を食べるときの口腔内の咀嚼物の流動性を調べた。 咀嚼物の流動性の測定を試みたところ、誤差が非常に大きく、測定法の改良を今後検討していく必要があった。そこで、嚥下の必要条件を満たすような食品を調整し、これが口腔内で流動できるのか、すなわち嚥下可能であるかどうかを調べることとした。 瞬間弾性率および水分含量の異なるカマボコを調製し、これらのカマボコを細断して大きさの異なる粒子を作成し、咀嚼物粒子を模した。この粒子に水を足して、口腔内の咀嚼物を模して、硬さ、粒子の大きな、水分含量のそれぞれが異なるカマボコ咀嚼物モデルを試料とし、これらの試料を20代の学生をパネラーとして嚥下実験を行った。その結果、以下のことが分かった。 1.試料の水分量が一定量を超えると嚥下しやすかったことから、嚥下衝動には水分含量が大きく寄与していることが分かった。 2.硬いカマボコから調製した試料は、加水量を多くしても嚥下しにくかったことから、咀嚼する前の食品の硬さは嚥下衝動に関係しているとわかった。 3.粒子サイズが大きすぎると嚥下しにくいが、ある程度細かくなると粒子の大きさにそれほど依存せずに嚥下出来ることがわかった。 4.嚥下しやすい試料について、瞬間弾性率と粒子断面積と試料を調整する際に加えた水分量を乗じると一定値を示すことがわかった。 5.嚥下衝動には、物理的要因だけでなく、日常の食生活やパネラーの味の好み、視覚的要因なども大きく影響していることがわかった。 以上のことから、食品のかたさ・やわらかさに応じてある粒子サイズになるまで、かつ口腔内の水分含量がある一定量を超えるまで咀嚼し続けなければならないという、嚥下の必要条件は妥当であり、食品の嚥下可能な状態を定量的に表現できると言える。
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