昨年度の「実績報告書」で強調したように、タンザニアにおけるコーヒー生産農村の持続的発展のためには、単協による競売所への直接販売をはじめとする自律・内発的努力に、フェア・トレードが結び付くことが重要である。さらに本年度の調査により、下記の小農民による自律・内発的努力も重要であることが確認できた。 単協による直接販売の成功が生産者価格を改善し、小農民の生産意欲が戻りつつある。その象徴的事例が、病害に対して耐性が高く、そのため高価な農薬を使わずにすむ、新品種の苗木の普及である。さらに虫害をも避けるため、薬用植物や家畜の尿などを、木に噴霧する方法の適用が始まっている。 このような農業の低費用化の工夫は、タンザニアの小農民が得意とするところである。例えば直射日光に弱いコーヒーの木に対して、彼らの主食であるバナナの木や、疎林の高木が日陰を与えている。それらは同時に、土壌の水分保持や浸食防止に役立っているし、最も大切に扱われている豆科の高木は、空気中の窒素を固定する役割を果たしているという。地力の減耗を妨げているのである。さらにバナナやコーヒーの木の根本には、家畜の糞とバナナの葉などをからめて作った、堆肥が投入される。それらのおかげで、コーヒー・バナナ畑には、高価な化学肥料を投入する必要がない。また収穫時の労働者や特定時のみに使う農機具は、拡大家族の成員間での助け合いで調達され、やはり現金を支払う必要がない。 以上の低費用生産の実現は、コーヒー生産を持続化するための、小農民の私的価値の追求の結果であるが、同時に「低投入持続的農業」や「アグロフォレストリー」と呼ばれる、社会的価値の高い、環境保全的な生産方法が実現していることが興味深い。
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