本研究は、農業季節労働者の雇用過程において、農協や生産者組織などが提供している労働市場サービスの意義と問題を、事例調査を通じて整理することを目的としている。本年度は、岐阜県JA飛騨高山が実施している「アグリサポートバンク事業」、JA兵庫六甲西営農支援センターが実施している「無料職業紹介事業」、指宿市の「ジルバ人材センター」についての現地調査を行ったほか、アメリカにおける農業季節労働者の雇用実態把握のために、UC Berkeleyでの資料収集やSalinas Valleyの施設園芸農場の現地調査を行った。これらの事例調査の結果を以下にまとめる。 一つに、露地野菜地帯では、シルバー人材センターが実施しているような請負型の労働市場サービスがより適していうということである。露地野菜の場合はく農作業ピークが極めて短いほか、幾度に渡って発生するために、繰り返し農業季節労働力の雇用が必要である。請負型労働市場サービスに、繰り返し行われる一時かつ短期間の雇用に必要な取引コストの低減を可能とする仕組みとなっているからである。 二つに、施設園芸経営については、当該経営に必要な人材を経営主自らが選考することが望ましく、これを可能とする「無料職業紹介事業」がより適した労働市場サービスであるということである。施設園芸経営の場合は、雇用期間が比較的長く、かつ被雇用者の作業は単純労働に限らず日常的な栽培管理作業が含まれるために、採用に値する被雇用者の選考過程が省かれる請負型の労働市場サービスの利用はリスクを伴うからである。 三つに、農業労働力の雇用を行っている何れの経営においても、雇用環境の整備が急がれているということである。アメリカの雇用農場に比べて日本の雇用農家は、被雇用者のための雇用環境の整備が遅れており、この点が非農家世帯から労働力を誘引するに当って困難を来たしている。
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