研究概要 |
従来,農業用溜池は利水者による様々な管理作業により良好に維持されてきたが,近年になり,農業の衰退や農業従事者の高齢化などにより管理が粗放化されるのに伴い,水質をはじめとする水環境の悪化が懸念されるようになってきている.本研究では,従来は行われてきたが,近年実施されることが少なくなった落水に注目し,落水が水質の及ぼす影響を検討している.本年は,現地調査,底泥の溶出実験や底質分析を中心にして,栄養塩の挙動を検討した.プランクトンの死骸などであるデトリタスの沈積などにより底泥表面に過剰に有機物が堆積した場合,それらの分解の過程で多くの溶存酸素が消費され,下層は貧酸素状態となる.その結果,一般に知られているように,鉄と難溶性塩を構成していたリン酸が溶出してくることとなる.これに対し,落水することにより,底泥を空気に露出させ,有機物の分解を促進させることにより,最貯水後の溶出を効果的に抑制できるのではないかと考えた.また,同時に乾土効果と呼ばれる好気状態下での脱窒菌の不活性化も予想された.調査および測定の結果,リンの溶出抑制は,底泥中の全鉄と密接に関係しており,鉄の状態あるいは量により大きく変化することが明らかとなった.また,窒素の関しては,ほぼ予想通りに,底泥を乾燥させることにより,無機態窒素の溶出が増加しており,水田の乾土効果と同様の効果が見られることが明らかとなった.現時点での知見より,浚渫を伴わない,落水のみでは必ずしも期待される効果が見られない可能性が高いといえる.
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