生体におけるエネルギー代謝は、主にグルコースを中心とした糖質および脂質の代謝系によって調節されている。脂質代謝系はエネルギーの蓄積と分解に携わっており、蓄積と分解に働く酵素の発現を正あるいは負に調節することができれば、代謝バランスを効率良く変動させることができる。そこで、ニワトリを用い、脂質代謝への寄与度が高い肝臓へ外来遺伝子を導入する手法を確立しようと試みた。また、ニワトリ肝臓においてエネルギー代謝に変動をもたらす一要因として脂肪酸結合蛋白質に注目し、脂質代謝および糖質代謝への影響を調査した。その概要については以下の通りである。 1)生体にて、ニワトリヒナの肝臓へ外来遺伝子を導入しようと試みた。翼下静脈および膵十二指腸静脈より、大量のリンゲル液とともに、遺伝子発現ベクターを注入し、24時間後、その発現レベルを測定した。しかしながら、肝臓における発現は極わずかであり、過剰に外来蛋白質を発現させるには至らなかった。したがって、マウスやラットで成功が報告されている手法をそのままニワトリへ適用しても、生体肝臓へ遺伝子を導入することは困難であると推察された。 2)ニワトリヒナの肝臓において、脂質代謝系転写因子の誘導及び脂肪酸酸化速度を制御すると考えられている脂肪酸結合蛋白質を培養細胞にて強制発現させた。その結果、肝臓で発現する2種類の脂肪酸結合蛋白質のうち片方が、解糖系に合流する経路の代謝を担う乳酸脱水素酵素の活性を上昇させることが判明した。したがって、脂肪酸結合蛋白質は糖代謝へも直接的あるいは間接的に作用し、エネルギー代謝系を複合的に調節する可能性が示唆された。
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