脂質代謝系はエネルギーの蓄積と分解に携わっており、蓄積と分解に働く酵素の発現を正あるいは負に調節することができれば、代謝バランスを効率良く変動させることができる。鳥類肝臓では、哺乳類には存在しない二種類の脂肪酸結合蛋白質(L型およびLb型)が存在しており、脂質系転写因子の発現を間接的に制御する。そこで、二種類の脂肪酸結合蛋白質を強制発現させた細胞培養系を用い、脂質蓄積量に如何なる変化をもたらすのかについて調査した。また、脂肪酸結合蛋白質の発現を制御する転写因子を検索し、脂肪酸結合蛋白質の発現を正あるいは負に調節することが可能かについても検討した。得られた結果の概要は以下の通りである。 1)L型およびLb型脂肪酸結合蛋白質を強制発現させたBHK細胞株を作製し、細胞内の脂質含有量を調査した。 2)L型脂肪酸結合蛋白質を強制発現させた細胞株で中性脂肪含量が増加したが、リン脂質およびコレステロール含量に変化は見られなかった。 3)Lb型脂肪酸結合蛋白質を強制発現させた細胞株では何れの脂質成分含量にも変化は見られなかった。したがって、両脂肪酸結合蛋白質のうちL型のみがエネルギー蓄積を正に制御していることが判明した。 4)両脂肪酸結合蛋白質のプロモーター領域を含むレポーター遺伝子を培養細胞へ導入し、それらの転写を制御する要因について調査した。 5)核内転写因子であるニワトリPPAR-αを強制発現させるとともに、脂溶性リガンドであるETYAを添加した所、L型では発現が強く誘導されたが、Lb型では変化が見られなかった。 6)ニホンウズラ肝臓におけるPPAR-αと両FABPの発現量の相関関係を調査した所、L型では強い正の相関が観察されたのに対し、Lb型での相関は弱いものであった。 7)以上より、鳥類におけるL型脂肪酸結合蛋白質の発現量はPPAR-αにより調節を受けるとともに、このL型脂肪酸結合蛋白質の発現量を変化させることにより脂質蓄積量を調節することが可能であるこを示した。
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