前年までの一連の研究で、ギセリン遺伝子改変動物の作製と解析は個体レベルでのギセリンの役割解明に必要不可欠であり、さらにギセリンの発現調節機構や機能を解明し制御・利用することは将来的に疾病治療や診断にも応用出来ると期待した。それらを踏まえて、本年度は以下の研究成果を得た。1)ニューロフィラメントのプロモーターを利用して神経系にギセリンを発現するトランスジェニックマウスを樹立化した。現在、脳にトランスジーンを発現する子孫を継代中であり、中枢神経の形成に異常が生じているか病理組織学的に検索している。今後はこのマウスを用いてギセリンが記憶・学習能力や神経組織再生能力に与える影響にも焦点を当てる。さらには、損傷治癒能力や腫瘍発生率に関する検討も行う。2)ルシフェラーゼアッセイによりギセリンの発現調節機構の解明を試みた。その結果、NGFがギセリンの発現を増加させる事、これにはCREB配列が関与する事が判明した。また、TGF-betaもギセリンの発現を増加させた。これらのことは、ギセリンの転写が外的因子により調節されていることを示唆するものである。3)様々な動物のギセリン遺伝子をクローニングし、合成ペプチドを免疫することにより種々の抗ギセリン・モノクローナルおよびポリクローナル抗体を作製した。これらを用いてマウス、ラット、鶏、犬、猫、牛人の自然発症腫瘍を集め、免疫組織学的にギセリンの発現パターンを解析した。その結果、乳癌、メラノーマ、大腸癌の原発巣と転移巣に強い発現が認められ、さらにはそれら腫瘍の罹患動物の血清中にもギセリン蛋白が検出されたことから、ギセリンが種に共通した腫瘍マーカーとなることが示唆された。現在、高感度のELISAを開発し、罹患動物の腫瘍体積と血中ギセリン濃度の相関性をスクリーニングし、新規の腫瘍診断キットを開発している。
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