牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)に感染した牛が致死的な粘膜病を発病する際には、ウイルス遺伝子内に宿主由来遺伝子が挿入することが明らかになっている。この宿主遺伝子の一つとしてcINS遺伝子がある。このcINS遺伝子から翻訳される蛋白は分子シャペロンとして機能し、BVDVの病原性発揮に関与していると考えられるが、詳細は不明である。 本年度は、BVDV Nose株のウイルスゲノム内に挿入されているcINS遺伝子をクローニングした。この遺伝子を大腸菌発現系で発現し、組換えcINS蛋白を得た。この組換え蛋白をアフィニティーカラムで精製後、モノクローン抗体作製のための免疫原とした。本組換えcINS蛋白に対するモノクローン抗体は12クローン得られた。これらのcINS蛋白に対するモノクローン抗体を用いて、BVDV感染細胞中におけるcINS蛋白の発現量、およびその局在を現在解析中である。また、Nose株のNS2-3領域の遺伝子をクローニングし、真核細胞発現ベクター内にサブクローニングした。本発現プラスミドを細胞に導入24時間後には、NS2-3蛋白の発現が確認された。さらに、BVDVと同じペスチウイルスに属する豚コレラウイルスの新たな細胞病原性にもNS2-3の開裂が関与しており、本開裂に関与する宿主遺伝子を同定することがペスチウイルス研究のすべての命題となった。 来年度は、本年作出したモノクローン抗体、およびNS2-3蛋白発現プラスミドを用いて、cINS 蛋白が、NS2-3蛋白の開裂に直接作用するのか否かを明らかにするとともに、分子シャペロンであるcINS蛋白と相互作用すると考えられる新たな宿主因子をTwo Hybridシステムで検索する。また、作製されたモノクローン抗体を利用して、cINS遺伝子がウイルスゲノムに取り込まれているウイルス株を野外ウイルス株から選択し、Nose株の病原性獲得メカニズムとの比較を行う。
|