蹄疾患は家畜の生産性を著しく障害し甚大な経済損失をもたらす。蹄疾患は多因性疾患に分類され、栄養、環境、感染および遺伝などがその危険要因として報告されている。しかし、個々の要因については未だ充分な解明には至っていない。In vitroにおける研究では、蹄組織が特殊な蛋白結合様式を持つために物質分離が困難であることや、蹄組織由来細胞の分離・培養技術が特殊であることなどから、細胞生物学的なアプローチも行われていない。これらはいずれも蹄疾患の予防技術を検討する上で大きな阻害要因となってきた。申請者は本研究において、基礎的な解析として、角質の物理性状、すなわち硬度および水分量について検討した結果、蹄底では蹄尖から蹄球にかけて硬度の低下と水分量の上昇が確認された。角質タンパク質の解析では5種のケラチンが確認され、また、脂質分析では、これ迄ウシでは報告されていないセラミドの存在を明らかにし、疾患にともなうそれらの変化についても解明し得た。 以上、本研究の結果より、蹄角質には数種のケラチン蛋白と脂質が存在し、それらは蹄の部位により分布がことなること、また、疾患にともない変動する事が明らかになった。これらの結果は、今後蹄病の発生機序および予防対策を検討する上で重要な知見になりうるものと考えられる。
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