飼養形態の大型化やフリーストール化が進み蹄疾患の危険要因はさらに細分化および複雑化を呈している。その防除には従来行なわれていた単一因子の解明に留まらず、多面的かつ多変量的解析が極めて重要であると考えられる。本研究では、まず、ウシ蹄組織由来ケラチノサイトを用い、蹄疾患発症時におけるケラチノサイトの増殖および角質形成についてその詳細について検討した。その結果、炎症性サイトカインは角質細胞の増殖を促進する事が示されたが(NBT試験)、Western Blottingによりサイトクラチン10の合成量は逆に低下することが明らかになった。また、脂質成分として保水および防水機能に関与するセラミドについて検討した結果、サイトカイン添加によりセラミドの合成低下が確認された。蹄葉炎では虚血性の血流障害によりサイトカインが誘導される事が報告されており、これらは角質形成を阻害し蹄の物理的機能を低下させる可能性が示唆された。次にビオチン(水溶性ビタミン)の飼料添加が個体の角質形成に及ぼす影響についても検討した。投与1ヵ月で血清ビオチン濃度は対照の約3倍程度まで有意に上昇した。角質硬度は投与群で有意に上昇し、角質水分量は投与群で有意に低下する事が認められた。ビオチンはDNA合成を始め、タンパク質、脂質および炭水化物合成に関与する酵素の補酵素として機能する事が知られている。ビオチンの積極的な投与はこれらの酵素活性を正常に維持する事で、基底細胞におけるケラチンタンパクおよびセラミドの合成を正常に維持し、ひいては物理的特性が改善されたものと推測された。
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