赤血球膜Na-K-ATPaseをウワバインにより阻害することで、バベシア原虫の赤血球内での発育が阻害されることが明らかになっている。この原因を明らかにするために本年度は、Na-K-ATPase阻害により影響を受ける赤血球内環境として、赤血球内の酸化還元機構および酸化傷害の程度の評価、および赤血球内カリウムイオンの影響について検討を行った。 1)Na-K-ATPase阻害による酸化傷害の亢進の検討 赤血球内の酸化還元に重要な役割を持つ還元型グルタチオン(GSH)および赤血球酸化傷害の指標としてメトヘモグロビンと混濁度指数について、ウワバインによりNa-K-ATPaseを阻害した赤血球と正常な赤血球とで比較したが、GSHの減少や酸化傷害の亢進は観察されなかった。さらに、酸化剤により赤血球を故意に酸化させたが、GSHや酸化傷害の程度はNa-K-ATPase阻害の影響を受けなかった。以上より赤血球ではNa-K-ATPaseを阻害しても酸化還元機構に異常は起こらず、酸化傷害は亢進しない事が明らかとなった。 2)赤血球内カリウムイオンのバベシア原虫発育への影響 赤血球内に存在するカリウムイオンはNa-K-ATPase阻害により著しく減少したため、カリウムイオンの影響を明らかにするためにイオノフォアであるサリノマイシンを利用し、Na-K-ATPaseを阻害せず赤血球内のカリウムイオンを低下させ、バベシア原虫の発育を観察した。サリノマイシンにより、短時間で赤血球内カリウムイオンは減少し、赤血球内のバベシア原虫の形態の変化や原虫数の明らかな減少が観察された。長時間のサリノマイシン作用により、原虫はほとんど消失した。以上より、Na-K-ATPaseにより細胞内に輸送されるカリウムイオンおよびカリウムイオンの赤血球内濃度に依存して変化する因子がバベシア原虫の発育に重要である可能性が示唆された。
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