赤血球膜Na-K-ATPase阻害により赤血球内のカリウムイオンが減少しナトリウムイオンが増加することで、バベシア原虫の赤血球内での発育が阻害されることが、平成15年度の研究により明らかになった。そこで本年度は、原虫自身の細胞内カリウムイオンおよびナトリウムイオンの原虫の生存における役割を検討した。 1)イオノフォアのバベシア原虫に対する直接効果 赤血球膜Na-K-ATPaseを持たず細胞内外のイオン濃度の差が小さいLK型イヌ赤血球に寄生するバベシア原虫に対するイオノフォアの効果を検討したところ、LK型イヌ赤血球内の陽イオン組成はほとんど変化しなかったが、バベシア原虫は4時間でほぼ消失した。加えて、バベシア原虫感染赤血球内カリウムイオンおよびナトリウムイオン濃度は非感染赤血球と比べて明らかに変化していたことから、バベシア原虫は赤血球内とは異なる細胞内陽イオン組成とそれを維持するための独自の陽イオン輸送体を持ち、それらを維持できなくなった場合死滅することが示唆された。さらに、イオノフォアはバベシア原虫の細胞膜に直接作用し、原虫自身の陽イオン組成を崩壊させることが予想された。また、細胞にイオノフォアを作用させると、細胞内アデノシン3リン酸(ATP)濃度が著しく減少したことから、陽イオン組成を維持しようとNa-K-ATPaseなどのエネルギーを必要とする陽イオン輸送体が活性化し、ATPの消費が亢進することでATPの枯渇とさらには細胞死が引き起こされることが予想された。 2)イオノフォアの抗バベシア原虫効果 イオノフォアであるサリノマイシン、バリノマイシンおよびナイスタチンの抗バベシア原虫効果を検討したところ、いずれも高い抗バベシア原虫効果を有することが明らかになり、イオノフォアは新規抗バベシア原虫薬の候補として期待できることが明らかになった。
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