研究概要 |
乳牛は分娩後に低Ca血症に陥り易い。一般に分娩後乳牛では骨からのCa吸収は抑制されるので、Ca恒常性の維持には消化管からのCa吸収が重要な役割を演じることになる。消化管Ca吸収には粘膜細胞における能動輸送が関与し、その制御因子として種々のCa輸送関連タンパク質が注目されている。今回、乳牛の消化管を用いて、Ca輸送関連タンパク質の一つであるPlasma membrane Ca2+-ATPase(PMCA)の遺伝子発現量と組織局在を解析した。 実験1:ホルスタイン種乳牛の第一胃から直腸までの各部位から組織材料を採取した。掻爬した粘膜から抽出したtotal RNAを用いてPMCAの4つのisoform(PMCA1-4)についてRT-PCRを行った。さらに、PMCA2のcDNAからRNA probeを作成し、消化管各部位の4%パラホルムアルデヒド固定後パラフィン組織切片を用いてin situ hybridizationを行った。RT-PCRにおいて、PMCA1および4は消化管全域の粘膜で均一・明瞭に発現した。PMCA2は第二〜四胃および腸管で発現していた。PMCA3の消化管での発現は認められなかった。ウシPMCA2の塩基配列はヒトPMCA2と高い相同性を示した。in situ hybridizationでは、十二指腸および空腸粘膜底部の上皮細胞の一部でPMCA2が発現していることが明らかになった。また、消化管全域において、間質に浸潤する単核細胞や神経叢でもPMCA2の発現が認められた。 実験2:臨床上健康な乳牛20頭から十二指腸粘膜を採材し、PMCA、calbindin D9k(CaBP9k)およびvitamin D receptor(VDR)などの各種Ca輸送関連タンパク質のmRNA発現量を解析し、月齢や血中成分濃度との相関関係を検討した。(2)PMCA1および4ではそれぞれ血中CaおよびiP濃度と負の相関があり、PMCA2は血中1,25(OH)2D3濃度およびVDRと正の相関を示した。CaBP9kは月齢と負の、血中1,25(OH)2D3およびiP濃度と正の相関を示した。VDRは血中Mg濃度と正の相関を示した。 従来、単胃動物の消化管粘膜上皮細胞ではPMCA1および4の2種のみが発現すると報告されていたが、乳牛の小腸近位領域の粘膜上皮細胞ではPMCA2も発現することが判明した。また、PMCAの遺伝子発現量には血中無機濃度や腸管VDRが関係することが示唆された。
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