研究概要 |
妊娠の維持・分娩に子宮内局所免疫が関与することが,ヒトや齧歯類をはじめ様々な哺乳類で知られている。しかし,妊娠期ならびに分娩時の受胎産物を取り巻く栄養ならびに局所免疫機能が,分娩後の生殖機能ならびに繁殖障害発生にどのように影響するか明らかではない。近年,飼養環境の変化ならび個体の泌乳能力の向上にともない,生産性の低下を引き起こす生産病の発症が増加している。また,繁殖障害の増加にともなう人工授精受胎率の低下も生産性低下の大きな問題となっている。国内の食の安全・安心を確保するためには,疾病の発症リスクを軽減させ,健康な牛群を管理することにある。そのためには,妊娠期および分娩時に変化する生体の維持機構である血糖維持機構ならびに生体防御機構を解析し,病態発生に関与する生体の維持機構の破綻を明らかにすることが,疾病の発症予知,予防法の開発につながると考えられる。本研究では,妊娠期の栄養・代謝機能の変化ならびに免疫関連物質の解析を行い,分娩後の繁殖障害発症に関わる妊娠期の生体機能変化を明らかにすることを目的に行っている。現在,妊娠維持に関与すると考えられている子宮内局所免疫の主たる2型ヘルパーT細胞から産生されるサイトカイン,インターロイキン-6(以下IL-6)を指標に解析を行っている。現在までに,経産ならびに未経産牛29頭から,分娩前60日から血液の採取を行い,末梢血中IL-6濃度の測定を行った。分娩後の疾病発症状況から,胎盤停滞群8頭,子宮内膜炎群4頭,卵胞嚢腫群4頭および分娩後臨床上疾患が認められなかった13頭を正常対照群とした。その結果,妊娠期間中のIL-6膿度は,正常対照群と比較して子宮内膜炎群では高値で,胎盤停滞群は低値で推移する傾向を示した。妊娠期および分娩における子宮内免疫環境の異常が分娩後の繁殖障害,特に子宮・胎盤に関する疾病の発症と関係があることが示唆された。
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