平成16年度は、脳脊髄液および静脈血液中ナトリウム濃度較差を指標に、7.2%高張食塩液(HSS)投与による体液移動時間を検討した。その概要は次の通りである。 【目的】HSSを5mL/kg静脈内投与すると、上矢状静脈断面積の拡大が投与開始30分に1.94±0.09倍を最大として90分間持続する。しかし、HSSの静脈内投与によって脳脊髄液(CSF)が浸透圧勾配に伴ってどの程度の時間移動しているかということについては不明である。今回静脈血液中およびCSF中Na濃度を測定することでCSFの血液中への移動持続時間について検討した。【材料および方法】イソフルラン吸入麻酔下健常ビーグル犬5頭にそれぞれ5mL/kgのHSSおよび生理食塩液(ISS)を20mL/kg/時の投与速度で静脈内投与した。投与開始時をt=0分とし、投与前、t=15、30、45、60、90および120分目に静脈血液中およびCSF電解質濃度を測定した。またpre値に対する相対循環血漿量(rPV)を各採材時点でのヘマトクリット値および血色素濃度から算出した。【結果】HSSを投与した犬のrPVは、投与終了時(t=15)に123.5±3.9%の最高値を示す有意な増加を示し、これはISSを投与したそれよりも高値を維持した。HSS群における静脈血液中およびCSF中Na濃度はそれぞれ163.0±2.2mM(t=5)および156.8±5.0mM(t=90)を最高値とする有意な増加が認められ、これらはISS群よりも有意に高値で推移した。血液中およびCSF中Na濃度が等しくなるのはt=90であった。血液およびCSFの酸塩基平衡状態は、HSSおよびISS投与により有意な変化を示さなかった。【考察】HSSの静脈内投与により血液中Na濃度はCSF中のそれよりも90分間高値を維持し、演者らが報告した上矢状静脈断面積が拡大している時間に等しかった。従って、CSFが浸透圧勾配によって血管内に移動している時間は90分間であると思われた。 なお、現在は、MRIを用いて上矢上静脈断面積を指標にHSSにデキストラン70を6%添加した輸液剤および20%マンニトールの静脈内投与が脳血液循環におよぼす影響を比較検討中である。
|