研究概要 |
特定の微生物は、ポリリン酸を生体エネルギー担体として利用するエネルギー代謝酵素(ポリリン酸利用型酵素)を有する。ポリリン酸は、オルトリン酸が縮重合した単純な構造を示し、原始地球環境下で生成されうる。従って、ポリリン酸利用型酵素は生命進化の極めて初期段階に出現した酵素であると推定される。申請者は、ポリリン酸利用型酵素のうち、ポリリン酸とATPの両方を利用して、NAD、或いはグルコース・マンノースをリン酸化するエネルギー代謝酵素[各々、ポリリン酸/ATP-NADキナーゼ(P/A-NK)、及びポリリン酸/ATP-グルコマンノキナーゼ(P/A-GMK)]に焦点を当てて研究してきた。本研究は、ポリリン酸利用型エネルギー代謝酵素(P/A-NKとP/A-GMK)の構造機能相関解析を通じて、ポリリン酸利用型酵素とATP利用型酵素の、及びエネルギー代謝酵素と生体エネルギー担体の進化的相関性の解析を目的としている。本年度の研究において、P/A-NK、及びP/A-GMKのX線結晶構造解析を行った。(1)P/A-NK : P/A-NKの立体構造解析を継続し、2.7Å分解能の立体構造をほぼ明らかにした。その結果、本酵素のサブユニットは、約20kDaのC末ドメインと約10kDaのN末ドメインから構成され、両ドメインの間に形成される活性クレフトに両基質(ポリリン酸、ATP)結合部位が存在すること、及び両基質結合部位の少なくとも一部は共有されていることを明らかにした。両基質結合部位の共有性は速度論解析によっても示された。(2)P/A-GMK:大腸菌を宿主としたP/A-GMKの大量発現系を構築し、P/A-GMKを精製した。本酵素の結晶化条件を確立し、X線結晶構造解析を開始した。2.8Å分解能のX線回折データより、P/A-GMKの結晶は、単斜晶系、P2_12_12_1の空間群に属し、格子定数はa=66.2 b=83.7 c=103.8Åであり、非対称単位に2分子を含むと推定された。次に、重原子同型置換法により、UO_2Ac_2,AgNO_3,Se,GdCl_3、HgCl_2、K_2Pt(CN)_4、TmCl_2、及びEuCl_3の重原誘導体を用いて初期位相を決定した。Figure of meritは0.626であり、溶媒平滑化、及び平均化により、各々0.825、及び0.915に上昇した。
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