ポリリン酸依存キナーゼのポリリン酸利用機構、並びにポリリン酸依存キナーゼと現存生物のATP特異的キナーゼ間の進化的・構造的相関の理解を目的として、土壌より分離したArthrobacter属細菌KM株のポリリン酸/ATP-グルコマンノキナーゼ(GMK)のX線結晶構造を決定し、以下の結果を得た。GMKがα/β/αから成る三層構造を基本骨格として持つ相同性の高い二つのドメイン(NドメインとCドメイン)から構成されていることを明らかにし、GMKが一つのドメインに対応する遺伝子の重複・融合によって形成された可能性を示した。また、ATP特異的真核細胞型ヘキソキナーゼ(HK)である、ヒト由来HKの触媒活性を担うC末端側半分子(C-HKI)とGMKの立体構造の比較に基づき、両者が一次、二次、三次構造、およびグルコース結合部位の微細構造において高い類似性を示すことを明らかにした。さらに、GMKに結合していた二分子のリン酸からポリリン酸結合部位を推定した。ポリリン酸結合部位は、真核細胞型HK、原核細胞型グルコキナーゼ(GK)、および特定のATP特異的タンパク質(アクチン、ヒートショックプロテイン、アセテートキナーゼなど)に広く保存されているphosphate-1モチーフに存在していた。GMKは、グラム陽性型GK、即ち原核細胞型GK(グラム陽性およびグラム陰性型GKから構成される)に分類される。GMKの構造決定により、原核細胞型GKと真核細胞型HKの立体構造的類似性を初めて証明し、両酵素がGMK様の構造を持つ共通の先祖タンパク質から分岐進化した可能性を示した。また、真核細胞型HKと原核細胞型GKの共通の先祖タンパク質は、GMK様の構造を持つポリリン酸依存タンパク質であった可能性も示唆された。
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