研究概要 |
(固相担持型Mn(III)反応剤の調製) まず、Mn(III)反応剤としてMn(OAc)_3-2H_2Oを、固相担体としてCOOH基を交換基とするイオン交換樹脂であるAmberlite IRP-64[100-400 mesh,〜10 meq/g (dry)]を用い、固相担持型Mn(III)反応剤の調製を試みた。すなわち、窒素雰囲気下、Mn(OAc)_3・2H_2O(1.07g,4 mmol)のエタノール溶液にAmberlite IRP-64(1.0g)を加え、室温にて42時間撹拝した後、吸引ろ取した。次に、ろ取した樹脂をエタノール、つづいてヘキサンで洗浄した後、真空乾燥して赤褐色の樹脂を得た。原料として用いたMn(OAc)_3・2H_2Oはエタノールに溶解するが、この手法で処理した後の樹脂はエタノール中で撹拌してもMn(III)特有の赤色が全く溶出してくることがなかったことから、用いたMn(OAc)_3・2H_2Oは、ほぼ定量的にAmberlite IRP-64に担持されたものと推測される。現在、Mn(III)の担持量を正確に分析すべく準備を進めているところである。 (固相担持型Mn(III)反応剤を用いた酸化的ラジカル環化反応の検討) 上記の方法で調製した樹脂を用い、実際にラジカル環化反応を試みた。用いる基質は研究実施計画に基づき、分子内にアルキン部を有しβ位にメチル基が1つ置換された既知のβ-ケトエステルとした。まず、コントロール実験として、Mn(OAc)_3・2H_2Oを用いてエタノール中、室温で反応を行ったところ、5-exo環化体が30%、6-endo環化体が9%の収率でそれぞれ得られた。次に、調製した樹脂を用いて同様の条件下反応を行ったところ、予想に反してラジカル環化はほとんど進行せず、5-exo環化体と6-endo環化体が合わせてもわずか6%の収率でしか得られず、その代わりに主生成物として基質の活性メチンがヒドロキシル化されたアルコール体が29%の収率で得られた。Mn(OAc)_3・2H_2Oで処理していないAmberlite IRP-64を用いてもこのような反応が全く起こらないことから、この酸化反応がMn(III)反応剤あるいは固相担持型Mn(III)反応剤に由来するものであると考えられる。現在、反応機構についての考察も含めさらに詳細な検討を加えているところである。
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