研究概要 |
芳香族化合物は、医薬、農薬の基本骨格であるだけでなく、そのオリゴマーやポリマーは近年、導電性材料科学の分野で汎用されていることからポリマーを含めた芳香族化合物類の高効率的官能基化法の開発は合成化学上、重要な課題である。また、これら芳香族系精密有機化学製品の化学合成に対する需要が益々高まる中で、環境調和型化学合成技術の開発は社会的急務である。中でも酸化的官能基化に関しては工業的に実用可能な手法が極めて少ない。本申請研究では、上記の課題を解決すべく重金属酸化剤に代わる安全で多様な反応性を示す超原子価ヨウ素試薬、とりわけリサイクル可能なポリマー担持型超原子価ヨウ素試薬を用いた各種芳香族化合物の極性転換(Umpolung)による多様な新規官能基化反応の開発とその複合的利用による医薬、新規材料等、多機能性芳香族化合物の環境調和型合成プロセスへの展開を視野に入れ、研究実施計画に基づき研究を遂行し、以下の成果を得た。 (1)チオフェン類の酸化的二量化反応の開発:最近、その高い導電性から注目を集めているポリチオフェン系材料の合成において重合反応の際、構造欠陥を生じない前駆体として利用されている2,2'-ビチオフェン類の効率的合成法を開発することができた。これまで酸化的手法を用いてはオリゴマー化が優先し、二量体で止めることは困難であったが、ルイス酸活性型超原子価ヨウ素試薬を用いることにより、チオフェン類の官能基化を経ない直接的二量化を可能にした。 (2)クロマン骨格の新規合成法の開発:芳香族化合物、とりわけフェノールエーテル類の酸素官能基化反応は多くの生物活性天然物合成において重要である。これまで酸化的手法を用いては低収率でしか実現できなかったクロマン骨格の構築に固体酸触媒-超原子価ヨウ素試薬複合系を利用することで比較的良好な収率で分子内閉環反応を進行させることに成功した。
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