研究概要 |
本研究の目的は、リゾチームをモデルに、アミノ酸変異による変性構造変化がどのように凝集反応と結びつくかを調べることである。還元リゾチームは強い変性条件下でさえも疎水クラスター(A9,W28,W62,W108,W111,W123からなる)を形成する事が報告されているが、我々のグループはTrp62Gly変異体ではその疎水クラスターがすべて崩壊することをNMRの緩和解析により明らかにした。 15年度ではリゾチームの4つのSS結合を1つだけ保持するような種々の変異体とこれらにW62G変異を加えた変異体の計16種を作製し、還元変性状態に近いモデルを構築した。結果として変性構造がSSの優位な形成に寄与し、変性構造が崩壊するとSS結合形成がランダムに起こることが示唆された。 16年度において、野生型及びW62G変異体についてSS結合を化学修飾で還元状態にしたリゾチームを作製し、フォールディング条件下におけるアグリゲーション反応の比較を行った。その結果、変性構造が崩壊するW62G変異体は野生型に比べアグリゲーション反応へ導かれる事が示唆された。一方で2004年に酸性条件下で還元状態のリゾチームがアミロイド形成を起こすという論文が報告された。そこで野生型及びW62G変異体の還元修飾体を用いてその酸性条件下でアミロイド形成実験を行った。CD測定とチオフラビンT存在下での蛍光測定より、変性構造をもたないW62G変異体の方はアミロイド形成を起こしにくい事が分かった。以上の結果から変性構造はアグリゲーション反応を抑制し効率的なフォールディング過程を導く反面、条件の変化でアミロイド形成が起こりやすくなることが示唆された。即ち、変性構造がアミロイド形成に関与する事を初めて証明することに成功した。本成果はJ.Mol.Biol(2005)347,159-168に掲載された。また疎水コアの各アミノ酸残基のGly変異体を調製しNMR緩和解析を行った。その結果、W62Gのように疎水コアが全て崩壊するのではなく、変異によって部分的な変性構造を形成する事が分かった。即ち、変性構造のバリエーションを得ることに成功した。この変異体を用いる事でさらに変性構造とアミロイド形成の関与を追求する事が可能であろう。
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