研究概要 |
天然抗酸化剤によるラジカル消去の反応機構に対する溶媒効果について、ストップトフロー法による速度論的手法により検討した。非プロトン性溶媒であるアセトニトリル(MeCN)中、ビタミンEのモデル化合物である2,2,5,7,8-pentamethylchroman-6-ol(PMC)による2,2-diphenyl-1-picrylhydrazylラジカル(DPPH^・)またはgalvinoxylラジカル(GO^・)消去速度は、反応系にマグネシウムイオン(Mg^<2+>)を加えても変化しなかった。このことから非プロトン性溶媒中におけるPMCによるラジカル消去反応は、金属イオンによって加速される性質をもつ電子移動反応を経由せず、一段階の水素原子移動機構で進行していることが明らかとなった。一方、プロトン性溶媒であるメタノール(MeOH)中では、MeCN中の場合とは異なり、Mg^<2+>の添加により反応が顕著に加速された。これはラジカル消去反応に、PMCからDPPH^・またはGO^・への電子移動過程が含まれていることを示している。次に、PMCの一電子酸化電位に対する溶媒効果を調べるために、PMCのセカンドハーモニック交流ボルタモグラム(SHACV)を測定した。その結果、MeOH中における一電子酸化電位は0.63V vs SCEとなり、MeCN中の値(0.97V)から大きく負側にシフトした。このことから、MeOH中では、PMCの一電子酸化によって生成するラジカルカチオン種が、MeOHによる溶媒和によって顕著に安定化されるために、MeCN中よりも電子移動反応が起こりやすくなったと考えられる。さらに、このラジカルカチオン種を安定化するために、反応系にピリジン誘導体を加えると、反応は顕著に加速された。また、ピリジン誘導体の塩基性が強いほど、反応は大きく加速された。一方、我々は、緑茶の成分である(+)-カテキンによるラジカル消去反応はMeCN中でも電子移動反応を経由して進行するこを明らかにしているが、この反応系に水を加えると、反応速度が顕著に増大することを明らかにした。この場合にも、水が(+)-カテキンの一電子酸化によって生成するラジカルカチオン種を顕著に安定化しているためと考えられる。以上の結果から、抗酸化剤によるラジカル消去の反応機構は、溶媒などのまわりの環境によって大きく変わることが明らかとなった。次に、以上の知見に基づき、ピリジン骨格を有する新規ビタミンE類縁体を合成し、ラジカル消去活性について検討した。その結果、分子内にピリジルチオ基をもつビタミンE誘導体は、ラジカル消去活性がPMCよりも3倍高いことがわかった。今年度に得られた成果は、原著論文に3編、学会で27件発表した。また、日経産業新聞(2/18)、日刊工業新聞(2/18)、および科学新聞(3/4)にてプレス発表を行なった。
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