これまでに、S-II遺伝子ノックアウトマウスが胎齢13日前後に肝縮小を伴う致死を導くことを明らかにしている。また、胎児肝細胞のフローサイトメトリー解析から赤芽球の画分が消失していることが明らかとなり、S-IIが赤芽球への分化に必須であることがわかった。赤芽球の分化、生存にはサイトカインの一種であるエリスロポエチン(EPO)が必須であることが報告されている。そこでノックアウト胚においてEPO遺伝子の発現が低下しているか否かを解析したところ、発現量の低下は見られず、むしろノックアウト胚において増大していることを見出した。また、EPOの下流で機能すると考えられている転写因子STAT5の発現とEPO依存の活性化は、野生型マウスと差がないことが明らかになった。一方、STAT5によりEPO依存的に転写活性化される遺伝子Bcl-XLの発現量が、野生型マウスと比較してほぼ半分に低下することがわかった。Bcl-XLタンパクはアポトーシスの抑制に働くことが知られており、そのノックアウトマウスはS-II欠損同様に胎児肝造血の異常により胎生中期で致死することが知られている。そこで、S-IIノックアウトマウスの肝臓に対してTUNEL染色を行ったところ、野生型マウスと比較して陽性細胞が増加しており、アポトーシスが亢進していることがわかった。これらの結果から、S-IIはBcl-XL遺伝子の発現を促進することにより胎児肝の赤血球産生に寄与すると考えられる。
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