リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ(PHGPx)はひとつの遺伝子から、非ミトコンドリア型、ミトコンドリア型、核小体型の3つのタイプが転写される。本研究において新たに核小体型PHGPx高発現株の作製に世界ではじめて成功した。IgE抗原刺激におけるTNFαの産生経路に対して、非ミトコンドリア型PHGPx高発現株は抗原刺激におけるJNKの活性化を抑制し、以下AP-1の活性化を抑制してTNFα産生系を抑制した。一方、IkB・NFkB経路は抑制しなかった。ミトコンドリア型PHGPx高発現株はIgE抗原刺激におけるIkBのリン酸化を抑制し、NFkBの活性化を抑制してTNFα産生を抑制したが、JNKのリン酸化は抑制できなかった。興味深いことに、ミトコンドリア選択的な抗酸化剤、MitoQおよびミトコンドリアへのカルシウム流入の阻害剤がIgE抗原刺激に対して、IkBのリン酸化を抑制し、NFkB経路においてミトコンドリア内の活性酸素生成がシグナル分子として機能していることが明らかとなった。またミトコンドリア型、および非ミトコンドリア型はNFATの活性化を抑制することが明らかとなり、二つのPHGPxはオルガネラ選択的に別の経路を抑制しTNFα産生経路を抑制していることが明らかとなった。一方核小体型PHGPxでは顕著な抑制効果はみられなかった。PHGPxの変動が炎症性細胞において実際に見られるのかについて検討したところ、カラゲナン胸膜炎やカゼイン腹腔炎において炎症部位に遊走されてきた好中球では一過的にPHGPxの活性、発現が著しく抑制されていることを見いだし、さらに、時間経過とともに発現が回復することを見いだした。好中球におけるPHGPxの発現変動はケモカインGROによりオートクライン的に作用してPHGPxの発現制御および細胞内のレドックス変動に関わっていることを明らかにした。
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