肝臓はリポ蛋白産生の中心となる臓器であり、生体における脂質供給基地として機能している。肝細胞は中性脂質を合成、貯蔵、分泌(および回収)する能力を有しているが、これらのバランスが崩れると高脂血症や脂肪肝などの疾患が惹起される。中性脂質は細胞内では主に脂質顆粒(脂肪滴)として蓄積されることから、本研究では肝臓における中性脂質蓄積機構の基盤となる情報を得る目的で、ヒト肝由来培養細胞HuH7から細胞内脂質顆粒を単離し、主要な蛋白をnano-LC MS/MS法により同定した。その結果、脂質顆粒に存在する主要蛋白17種が同定された。脂質顆粒蛋白の中では、75kDa、55kDa、35kDaの3種の蛋白の含量が高く、特に55kDaの蛋白が最も多く存在したが、55kDa蛋白は脂質顆粒特異的蛋白として知られるadipose differentiation-related proteinであり、35kDa蛋白は17β-hydroxysteroid dehydrogenase 11という酵素であり、75kDa蛋白はacyl-CoA synthetase 3という酵素であることが判明した。これらの蛋白以外には、脂質代謝酵素としてacyl-CoA synthetase 4、lanosterol synthetase、NAD(P)dependent steroid dehydrogenase like proteinが、脂質結合蛋白としてTIP47とannexin IIが同定された。また、3種類の機能未知の蛋白と2種類のRas family small GTPaseも同定された。このように、細胞内脂質顆粒が特定の蛋白群により構成されていることが明らかとなったが、脂質顆粒の蛋白組成は既知のオルガネラのものとは異なっていることから、脂質顆粒が新たなオルガネラとして位置付けられる可能性が提示された。
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