肝臓は主要なリポ蛋白産生臓器であり、全身への脂質供給に不可欠な臓器である。そのため、肝細胞は中性脂質の合成や分泌の能力を有しているが、それとともに中性脂質の貯蔵能力も発達させている。中性脂質の合成、分泌、貯蔵のバランスが崩れると高脂血症や脂肪肝などの疾患が惹起される。このような観点から、本研究では細胞内での中性脂質貯蔵機構の中心となる細胞内脂肪滴の形成機構を解析している。昨年度の研究成果によって、脂肪滴にはアシルCoA合成酵素(ACS)の一種であるacyl-CoA synthetase 3(ACS3)が多く存在することが判明した。そこで本年度はヒト肝由来培養細胞HuH7をモデル系としてもちい、脂肪滴形成におけるACSの役割を調べた。HuH7細胞をオレイン酸存在下で培養したところ、細胞内で脂肪滴が顕著に発達した。この培養系にアシルCoA合成酵素の特異的阻害剤であるTriacsin Cを添加したところ、脂肪滴の形成は効果的に阻害された。これらの培養条件において、脂肪滴に存在するACS3の量をイムノブロットにより解析したところ、ACS3はオレイン酸投与細胞では2.8倍に増加していたが、オレイン酸とTriacsin Cを同時に投与した細胞では対照レベルに抑えられていた。この知見に基づき、HuH7細胞から単離した脂肪滴がACS活性を有しているかどうかを調べた。その結果、脂肪滴にはACS活性が検出され、この活性はTriacsin Cによって濃度依存的に阻害された。脂肪滴画分のACS活性は細胞培養時にオレイン酸を添加した場合に2.2倍に上昇した。Triacsin Cを同時添加した細胞では脂肪滴のACS活性はきわめて強く抑制されており、何らかのダウンレギュレーションを受けている可能性が考えられた。以上のような結果から、脂肪滴の形成には脂肪滴上のACSが重要な役割をはたしていると考えられた。
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