本年度はアセトアセチルCoA合成酵素の脂肪組織における生理的意義の解明を目的に、以下のような実験を行った。 本酵素の脂肪組織における影響を見る目的で、本酵素遺伝子のsiRNA法を用いた遺伝子発現抑制系の構築を目指した。対象として前駆脂肪細胞系であるST-13細胞を用い、リポフェクション法を用いて複数の候補配列をターゲットとして検討したところ、いずれの配列においても20-35%の遺伝子発現量の減少が見られた。しかし、この本酵素発現低下細胞と通常細胞との間に生育や脂肪細胞への分化における大きな差異は見られなかった。現在、より効果的に発現減少を起こすターゲット部位を探索している。 また、本酵素遺伝子は他の組織に比べ雄の皮下脂肪組織において顕著に高発現していることが明らかになっている。このことから、本酵素発現と性ホルモンとの間に生理的に相関関係があることが考えられる。これを確かめる目的で以下の実験を行った。まず、雌雄で雄性ラット皮下部脂肪組織並びに雌性ラット皮下部脂肪組織を用いた初代培養系で本酵素遺伝子の発現を検討したところ、分化誘導の有無に関わらず発現に量的、時間的な点で大きな差異はなかった。このことから、生体における本酵素発現量の差異は血液由来の液性因子に起因するものである可能性が考えられた。そこで脂肪細胞培養株のST-13細胞に対してエストラジオールを処理したところ、処理後24時間から48時間まで持続的に本酵素遺伝子の発現亢進が見られた。この発現上昇は前立腺癌細胞株のMCF-7や肝癌細胞株のHepG2等その他の細胞系では見られなかったことから、脂肪細胞に存在する本酵素は他の組織に比べて特異的な性ホルモン支配を受けている可能性が示唆された。
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